湯灌の目的とは?歴史や費用などについても紹介
2022.08.15
1,300年前から受け継がれる、人の想いをつなぐ儀式が「湯灌(ゆかん)」です。湯灌は葬儀の前の儀式として実施されます。
しかしながら、湯灌と聞いてどのようなものかすぐにイメージできる方は少ないでしょう。そこで今回は、湯灌の歴史や宗教的な意味、流れ、湯灌をすることによって故人様やご家族様にとって、どのようなよいことがあるのかなどについて解説します。
湯灌とは
湯灌とは、故人様のご遺体を棺に納める前に身体や髪を洗い、着替えや化粧を施すことで旅立ちの準備をする儀式です。湯灌はご家族やご遺族などの近親者が、タオルなどで故人様の顔や体を軽いて行うケースもありますが、近年は湯灌師(詳しくは後述)と呼ばれる専門職の方が実施することが多くなりました。
なお、湯灌には身体や髪を洗う以外に、着替えや化粧なども含まれるため、1~1.5時間程度の時間が必要です。ちなみに、病院でお亡くなりになった場合は、病院のスタッフが清拭と呼ばれる、身体を拭く儀式を行うケースが多いでしょう。
湯灌を実施する場所
湯灌は葬祭会館など、設備がある場所で実施することが一般的です。また、移動式の湯船などを用いる場合もあります。もちろん、ご自宅に十分なスペースがある場合は、そちらで湯灌を行ってもよいでしょう。
なお、ご自宅で湯灌を行った場合は、使用した水を業者が持ち帰ることが多いようです。
湯灌に立ち会う人
湯灌に立ち会う人はご家族やご遺族が基本ですが、立ち合わず葬儀会社のスタッフに任せることもできます。湯灌はもともと近親者が故人様を偲ぶ時間としても機能していたため、現在でもその考え方が残っているのでしょう。
湯灌を行う3つの目的
湯灌を行う目的は主に3つです。それぞれの目的について解説します。
目的1.「儀式」としての湯灌
湯灌には「現世でのお疲れ、煩悩、痛み、苦しみなどを洗い流して清らかな身となり、旅立ちの準備を整える儀式」という意味があるそうです。また、赤ちゃんが産まれた際に行う「産湯」にも通ずるところから「来世への産湯」ともいわれています。
一方、キリスト教には「死者が復活する」という教義があり、エンバーミングという特殊な処置でご遺体を修復し、保存するという考え方があるため、基本的に儀式としての湯灌は行いません。
昨今では医療が発達したため、闘病をしながら人生の最期を病院で迎えることが少なくありません。そのため「闘病中ずっとお風呂に入れてあげられなかった……」といった方々にとっては、宗教的な意味合いではなく、故人様のためを想って湯灌の儀式を行うケースも多いと思います。
目的2.「癒し」としての湯灌
湯灌の2つめの目的は、故人様の癒しです。
人は生前、1日の終わりにはお風呂に入り、その日の疲れを癒します。お風呂に入って1日の汚れを洗い流すことで、気持ちよく眠りにつけるものです。
湯灌は、このような生前の習慣を故人様にも反映し、一生の仕事を終えた最後の癒しとして入浴させてあげるという意味が込められています。実際、湯灌の儀式を行った方々からは「ずっとお風呂に入れなくて可哀想だったからよかった」「気持ちよさそう」というお声を頂くことが多いです。
誰かに頭を洗ってもらったり、背中を流してもらったりするのは気持ちがよいものなので、「最後の癒し」として湯灌が行われるという側面があります。
目的3.「衛生」としての湯灌
湯灌には宗教的な儀式や癒しという目的だけではなく、衛生上の目的もあります。
長らくお風呂に入っていない方は、どうしても垢やフケが目立ち、雑菌なども繁殖してしまうことが一般的です。これは故人様の状態をお守りするという側面においても、好ましいことでありません。
例えば、ご遺体の状態を変化させる原因として、腐敗があります。腐敗とは微生物の作用で有機物が分解し、ご遺体が悪臭を放つような状態に変化することです。
洗体や洗髪を行い、故人様の身体を綺麗に保つことによって、すべての状態変化を抑えられるわけではありませんが、腐敗をある程度は遅らせられます。なお、死後のご遺体の変化については以下の記事で解説しているので、併せてご確認ください。
関連記事:死後の遺体処理とは?ご遺体の変化となくなってからの流れ
湯灌師とは
湯灌師とは、故人様のご遺体の洗体や洗髪、着替え、化粧など一連の儀式を行う、湯灌に特化した専門の業者です。おもに葬儀会社などからの依頼を受け、病院や故人様のご自宅、警察署などへ赴き、湯灌を執り行います。また、湯灌師はご遺体を棺に納めることも多く、その意味では納棺師を兼ねるケースもあるでしょう。
湯灌師は2人1組で湯船やシャワーなど専用の機材を現場に運び、湯灌を行います。素人が湯灌を行うと、ご遺体を傷つけるといったリスクがあるため、湯灌を行う場合は湯灌師に依頼するのが得策です。
故人様を最後にお風呂に入れて綺麗にしてあげたいと思う方や、長い闘病生活が終わったことを労ってあげたい方は、湯灌師に依頼するとよいでしょう。また、事故や病気などで、ご遺体の状況があまりよくない場合も、湯灌師に任せるべきです。
納棺師との違い
湯灌師と納棺師は別物です。
諸説はありますが、約70年前の1954年、北海道地方に接近した台風15号の暴風と波浪によって、青函連絡船「洞爺丸」が津軽海峡で沈没しました。これが、乗員乗客合わせて1,337人のうち1,155人が亡くなった「洞爺丸事故」です。これをきっかけに、葬儀の世界に新しい仕事が生まれました。それが納棺師だといわれています。
函館市の海岸には、多数のご遺体が流れ着きました。しかし、あまりにも数が多すぎて、葬儀業者だけで対応できなかったそうです。そこで、地元の人たちが葬儀会社の依頼により、ご遺体をご遺族へ引き渡す仕事を手伝いました。これが納棺師という職業が確立するきっかけだといわれています。
湯灌の流れ
湯灌がどのように行われるのか、前後も含めた大まかな流れを確認しておきましょう。
1.着替えと状態の確認
まず、故人様のお召し物を脱がせ、身体の状態を確認します。
特に注意して確認するべきポイントは、傷や出血です。もし傷があれば事前に手当てし、お湯を当てても大丈夫か確認が必要です。出血などがある場合には、できるだけ該当部分を避け、故人様の傷に滲みないように注意しましょう。
2.湯灌の開始
綿などでお顔を整え、ご希望があれば顔そりや爪切りを行った後、立ち会いを希望されるご家族やご親戚とともにご遺体を浴槽へ運び、湯灌の儀式を執り行います。湯灌の実施中は周囲の方に、故人様のお肌を直接見せることはありません。湯灌師によって異なりますが、タオルや覆いなどで身体を隠すことが一般的です。
湯灌では、専用のボディソープやシャンプーを使って洗体と洗髪を行います。洗体後は身体を拭き、着替えを行う台へご遺体を移動させて、湯灌は終了です。
3.白装束や希望の洋服への着替え
湯灌が終わったら、ご遺体に旅支度を施します。
このタイミングで死化粧と呼ばれる、故人様へのメイクを行うことが一般的です。メイクには、お顔の色味を整える以外に、乾燥を防ぐという目的もあります。乾燥が進むと、色味の変化だけでなく目元や口元が開いてしまうため、肌の収縮が進む可能性が高いでしょう。
また、体内の毛が徐々に顔を出してきてしまうため、男女問わず、薄くお化粧をします。紐を結んだり、胸元へ六文銭を添えたりするなど、旅の支度を進めていきます。
4.ご遺体の納棺
湯灌師、またはご家族やご親戚の力を借りて、故人様を棺へ納棺します。身体に布団をかけて整えた後、副葬品などを手向ける流れです。最後に、棺のふたを閉じて閉式となります。
その後、お通夜や葬儀があれば式場へ安置します。葬儀までしばらく間が空く場合などは、再度保冷室に安置することが多いです。ただし、湯灌の内容は地域や宗派によって若干異なるため、葬儀会社などへ事前に確認しておきましょう。
逆さ水について
湯灌に使われる水は、逆さ水と呼ばれるものです。通常、お湯を適温にする場合は、水で温くすることが多いと思いますが、逆さ水は水にお湯を足して適温にする点が特徴といえます。
湯灌に逆さ水が使われる理由は、葬儀の際、逆さ事を行う風習があるためです。例えば、北枕や逆さ屏風、死装束の縦結びなどは、すべて逆さ事として行われています。
葬儀の際、逆さ事が行われるのは、生死の区分けを明確化するために、日常とは逆の物事を死の世界になぞらえているからだそうです。
湯灌の費用
湯灌は通常、葬儀会社のプランには含まれておらず、オプションとしてお願いするケースが多いです。一般的な湯灌の費用相場は、5~10万円程度だといわれています。
ただし、業者によって費用が異なるため、事前に確認しておきましょう。また、湯船を使用するかしないかなどによっても、費用が異なるようです。
湯灌の歴史
湯灌についての見識をさらに深めるために、湯灌の歴史を紐解いてみましょう。
日本における湯灌の歴史
そもそも湯灌とは、仏葬で棺に納める前に、ご遺体を湯で洗い清める儀式です。
日本における湯灌の歴史は、今から1300年ほど前に完成した日本書紀の中に見られます。「天皇 乃沐浴斎戒して」という記載があるそうです。現在、沐浴は「もくよく」と読みますが、当時は「ゆかはあみ」と呼ばれていたようで、これが「湯灌(ゆかん)」の語源になったのではないかといわれています。
なお、日本では805年に天台宗の開祖である最澄が、初めて灌頂(かんじょう)を行ったそうです。灌頂とは、仏になる際、頭に諸仏が水を注ぎ仏の位に達したことを証明する儀式で、元々はインドで王の即位や皇子を後継ぎとして、太子を立てる際に行うものだといわれています。戒律や資格を授け、正統な継承者とするための儀式だそうです。
その後、真言宗では入棺の際にも灌頂の儀式が行われており、葬儀の際に行われる湯灌の始まりだと伝えられています。
海外における湯灌の歴史
海外に目を向けると、中国の唐の時代に訳された経典「仏説無常経」の中に記されていたのが、一番古い湯灌の記録といわれています。このように昔から日本や海外でも、故人様を洗い清める儀式があり、かつてはご遺族や近親者、近所の手伝いなどが中心となって行われていました。
しかし現代では、葬儀会社のサービスとして、湯灌師がバスタブなどを活用し、シャワーで洗体や洗髪を行っています。
まとめ
故人様を悼み、身体や髪を綺麗にする湯灌は、旅立つ前の大切な儀式です。故人様との最後のお別れに際し、湯灌の実施を検討してみてはいかがでしょう。
なお、横浜市や川崎市で葬儀行う場合には、実績豊富な弊社、お葬式の杉浦本店にぜひご相談ください。創業130年の信頼と安心が自慢です。横浜市、川崎市における多くの葬儀実績があるので、故人様やご家族、ご親族の気持ちに寄り添った葬儀プランをご提案いたします。もちろん、湯灌も承っております。
葬儀についてわからないことがございましたら、24時間365日いつでもお気軽にお問い合わせください。