横浜市の火葬場に煙突がない理由とは?火葬炉の種類と火葬方式の違いを紹介
2022.04.05
「煙突はどこから見えますか?」火葬場内をご案内していると、地方からお越しになったご遺族などから、このように聞かれることがあります。
結論から申し上げると、横浜市が運営する火葬場である「久保山斎場」「戸塚斎場」「南部斎場」「北部斎場」では、20m以上の高くそびえ立つ煙突を見ることはできません。
では、なぜ煙突が見られなくなったのでしょうか?今回は横浜市の火葬場に煙突がない理由について掘り下げてみたいと思います。この機会に、ぜひ見識を深めてみてください。
火葬場に煙突がない理由
「火葬場=煙突」というイメージを持つ方は一定数いらっしゃるでしょう。
火葬場は人の営みにおいてなくてはならないものです。政府が火葬を解禁した年と同じ明治8年に、久保山の火葬場が設立されました。横浜市の場合はペリー来航以降、開港場の1つとして指定されています。そのため、伝染病防止など衛生上の観念から、他の市町村に比べ火葬場が重要な施設だと考えられてきました。
一方で「野焼き」だった時代から、立ち上る黒煙と臭いもあり、と畜場や下水処理場、ごみ焼却場と同例に「嫌忌施設」として捉えられてきたことも事実です。
しかし、火葬場は生々しい実務処理の場であると同時に、亡くなられた方との最後の別れの場でもあります。我々のような葬儀に携わる者からすると、火葬場は人生終焉の場でサービスを受ける「福祉施設」だと思っています。
ところで近年、嫌忌の象徴ともいえる「煙突」を見えなくし、無くす努力がされていることをご存知でしょうか。周辺住民への配慮から、火葬場から煙突をなくす方向で調整が進み、今ではほとんどの火葬場から煙突がなくなりました。
本章では火葬場から煙突がなくなった具体的な理由を2つ紹介します。
火葬炉には旧式と最新式が存在
火葬炉が旧式から最新式へ変わったことが、火葬場から煙突がなくなった理由のひとつです。旧式の火葬炉は温度がそれほど高く上がらないため煙突が必要でした。しかし、最新式の火葬炉は高温で一気に火葬を執り行えるため、煙突が不要になったのです。
日本は海外とは違い、単に「灰」になるよう火葬をしているわけではありません。「ご遺骨」と呼ぶように、残された身体を大切に考え、原形をなるべく保つように温度調節をして火葬を行います。日本では昔から、この火葬炉の調節を人の手で行ってきました。
さまざまな公害問題を抱える昭和40年代より、自治体と火葬炉メーカーにおける火葬炉改善の取り組みがはじまりました。例えば、従来の煙突による排煙方式に替わる、無煙、無臭、無塵、低騒音を実現する「無公害炉」の追求が挙げられます。また、それまで火葬技師の勘と経験にゆだねていた燃焼管理を測定機器やモニターでチェックするなど、科学的な技術で運転管理を行えるような研究が日々進み、新しい火葬炉が開発されました。
煙突がなくなったその他の理由
火葬場から煙突がなくなったもうひとつの理由は、ダイオキシンなどの有害物質を抑えるために、800度以上での火葬が義務化されたからです。旧式の火葬炉を使用する場合には、煙が立ち上がるため、ダイオキシンが排出される点が問題視されていました。
そのため、効率良く行える再燃焼炉を使用し、排ガスをコントロールするため、プログラムによる制御運転を行える火葬炉の開発が行われました。したがって、煙突を用いて強く排煙する必要がなくなった最新型の火葬炉を使用している火葬場には、高い煙突が存在しません。
また、煙突から煙が出る様子が死を意識させるため、近隣住民への配慮から煙突を無くしたという説もあるといわれています。
火葬方式は2つある
火葬方式にはロストル式と台車式と呼ばれる2つの種類があります。火葬についての見識を深めてもらうために、それぞれの特徴とメリット・デメリットを紹介します。
ロストル式
ロストル式とは、ご遺体を納めた棺をロストル(オランダ語で火格子)という格子に乗せて、バーナーで焼く火葬方式です。
骨受け皿と棺の間にロストルが挿入されており、その隙間から焼けたご遺骨が骨受け皿へ入る仕組みになっています。ただし、ロストル式で火葬を行う火葬場は減少傾向にあり、現在は全国で約1割程度しか実施されていない状況です。
台車式
台車式とは、ご遺体が納められた棺を主燃料炉へ運び、バーナーを使って火葬する方式です。ロストル式に代わり、近年は多くの火葬場で台車式による火葬が行われています。
台車式の火葬炉は2層構造になっていることが一般的です。1つがご遺体を納めるための炉で、もう1つが火葬時に排出されるガスを無害にするための炉になっています。また、3層構造の場合もあり、有害ガスや臭いの発生を抑制する炉が追加されている点が特徴です。
ロストル式で火葬をするメリット・デメリット
ロストル式で火葬を執り行うメリットは、燃焼速度が速い点と設備投資が安価に済む点です。
ロストル式は燃焼速度が速いので、火葬を迅速に執り行えます。また、台車式に比べ簡易的な設備となるため、安価に設置できる点がメリットです。
一方、ロストル式による火葬は、ご遺体の遺骨が原型を留めにくい点がデメリットだといえるでしょう。さらに、ご遺体から流れ落ちた体液が臭いを放つため、衛生面にも大きな課題がありました。これがロストル式から台車式へ変わった大きな理由の1つです。
台車式で火葬をするメリット・デメリット
台車式で火葬を執り行うメリットは、ご遺骨の原型を留めやすい点です。臭いも軽減され、衛生面でのメリットも大きいでしょう。
一方、台車式は設備が大掛かりになるため、火葬場側の設備投資が高くなる点がデメリットです。また、ご遺体の不完全燃焼のリスクが抑制される反面、火葬時間が台車式に比べ長くなる点もデメリットだといえます。
横浜市で火葬場の煙突は見えないのか?
横浜市にある4つの市営の火葬場では、煙突が見られなくなりました。しかし、民営の火葬場ではどうなのでしょうか?本章では、横浜市における民営火葬場の遍歴と、唯一煙突が見られる火葬場を紹介します。
横浜市における民営火葬場の遍歴
火葬場が最新型の火葬炉を備えるためには、建物の構造変更から安全装置機器の設置も含め、莫大な費用がかかります。そのため、高額な投資が不可能な民営の火葬場は、旧来の方法で火葬業務を執り行う場合が多いです。
横浜市には市へ移管した久保山と戸塚を除き、上大岡(横浜市港南区)、神大寺(横浜市神奈川区)、根岸(横浜市中区)に民営の火葬場がありました。しかし、戦争や関東大震災の影響などもあり、現在残っている民営の火葬場は、横浜市神奈川区松見町に所在する「西寺尾火葬場」のみとなっています。
西寺尾火葬場の設立は古く、大正13年6月5日だそうです。昭和50年に大きな増改築を行って以来、何度も修復工事を重ねつつ、昔ながらの姿を残した現在の施設となっています。
したがって、煙突のある火葬場を横浜市内で見ようとする場合は、西寺尾火葬場しかありません。
煙突がみえる火葬場「西寺尾火葬場」
綱島街道から横浜市立大口台小学校の近くから一本道を逸れ、車がすれ違う際、譲り合いが必要な幅員2.8メートルほどの細い道を進むと、住宅街の中に西寺尾火葬場が現れます。
長い歴史を持つ民営の火葬場ならではといえる道路の幅員の狭さが、のぼりや提灯を掲げ、白木づくりの柩籠を担ぎ、葬列を組んで野辺の送りをしていた時期から変わらない道であることを物語っています。かつて西寺尾火葬場があったのは、町から離れた田畑や森林の中に所在する緑に囲まれた場所でした。その後、都市化が進み住宅地の拡大に伴い、すぐ隣まで民家がある状況になっています。
車に乗ったまま敷地に入ると、深い下りの坂道が現れます。坂を下った先には、お寺の本堂のような外観の建物があり、駐車場には庭園のようにさまざまな植物が植えられているのが見られるでしょう。
建物には重々しい大きな扉がありますが、常に開け放たれており解放感がある点が特徴です。扉が並んだ部屋でお見送りをして外に出ると、下ってきた坂道の先がとても上の方にあるように見えます。周囲から切り取られたような、隔絶された空間に居たことを感じ、まるで故人様を天国の入口へ連れてさしあげたような気持ちになるでしょう。
その坂道をゆっくりと昇って、休憩室棟へと歩いて行きます。その途中で振り返ると、高くそびえ立つ煙突から、薄っすらと白い煙が昇ってゆく様子が見られます。故人様がご先祖様の元へ旅立たれてゆく姿を見られるでしょう。
西寺尾火葬場は、南部斎場と北部斎場が建設される以前、平成初期には横浜市の火葬の25パーセント近くをまかなっていたそうです。横浜市斎場条例に定められた火葬料金には、民営のため該当しません。そのため、5倍近い火葬費用が必要ですが「うちは先祖代々この火葬場で送ってきたから西寺尾で火葬じゃないと……」とおっしゃるご家族が今もたくさんいらっしゃいます。
施設は古く、完全バリアフリーではありませんが、西寺尾火葬場には美術館や博物館のようにも感じられる独自の良さがあります。
なお、横浜市に住民票がある方を西寺尾火葬場で火葬された場合、火葬費用の一部に対して補助がありますので、ご葬儀の後に申請を行ってください。
まとめ
今回は横浜市の火葬場に煙突がない理由について掘り下げてみました。火葬炉が旧式から最新式に変わったことや、民営の火葬場が減少したことなどが理由で、横浜市の火葬場からは煙突がほとんどなくなってしまったことがご理解いただけたと思います。
横浜市の死亡数は年々増加傾向にあります。過去5年間で約2,500件も増えています。
4カ所ある市営の火葬場は、市民優先枠を作って横浜市以外の利用者を減らしている点が特徴です。早朝の火葬をはじめ、友引休館日の開業など様々な工夫をこらし、火葬枠を増やして対応しています。
しかし、それでも常時5日以上火葬を待たなければならないほど、火葬の需要に追い付いていないのが現状です。令和7年に「東部方面斎場(仮称)」が竣工予定ではありますが「南部斎場」が開業までに予定より5年遅れた経緯や、既存の火葬場の酷使による老朽化とその改修工事も含め、すぐさま解消する問題とは思えません。
「古い火葬場が汚くて嫌だった」という方もおられますが、良いところを感じられる心持ちでいることも大切でしょう。