【病院に葬儀社が常駐!?院内葬儀社とは】
2022.08.16
1.人は病院で亡くなることが多い
院内葬儀社のお話をする前に、まずは人が亡くなる場所として圧倒的に病院が多いという事実からお伝えします。
かつての日本では、人は自宅で亡くなることが当たり前でした。
統計を取り始めた1951年には、自宅で亡くなる割合が82.5%であるのに対し、病院で亡くなる割合が11.6%程でした。
しかし、医療の発展や社会の変化とともに、この割合は1975年以降から完全に逆転し、2000年になると病院で亡くなる方が8割を超えるようになっています。
最近では最期を迎える場所としてご自宅や介護施設なども増えてきており、減少傾向が見られますが、依然病院で亡くなる割合が圧倒的に多いようです。
2.病院の事情
病院では治療を受けている方が優先されます。
入院待ちの人も多くいますから、病院側としては患者さんが亡くなった場合は、速やかに次の患者さんのためにベッドの確保をしなければいけません。
つまり悲しいことですが、亡くなってしまった方とご遺族は直ちに病院を出てゆくことが望まれるのです。
病院側は亡くなった方とご遺族が円滑に病院を出られるために「エンゼルケア(死後処置)をする」「亡くなった方を霊安室にお連れする」「治療費・入院費の精算」「お迎えに来た葬儀社に引き継ぐ」「病院を出発する際のお見送り」と、一連の業務があります。
しかし葬儀社が決まっていない場合は、病院側にとっては困ることになります。
葬儀社が決まるまでは、故人とご遺族が出発できないので、単純に霊安室がどんどん詰まってゆきます。
とはいえ葬儀の相談となると病院側は専門外ですから、このような場合は近隣の葬儀社のリストを見せてご遺族に選んでもらったりしているようです。
「院内葬儀社」が存在する背景には“速やかに出発していただきたい”という病院側の事情があるのです。
3.院内葬儀社
簡単な構図にすると「ご遺族から葬儀相談が発生した場合の対処を委託したい病院側」と「葬儀の依頼が欲しい葬儀社」との利害の一致があり、そこで院内葬儀社が登場します。
病院側は患者さんが亡くなった場合には、院内葬儀社に依頼をすれば「病棟から霊安室へのご搬送」→「お迎えに来た葬儀社への引き継ぎ(葬儀社が決まっていない場合は相談に乗る)」→「お見送り」と、業務の一部を代行してくれます。
忙しい病院にとっては人員的にメリットのあることでしょう。
単純に病床数が多ければ亡くなる方も多いわけですから、大きな総合病院などにはこの院内葬儀社が常駐していることが多いようです。
ただし病院側も同じ葬儀社ばかり出入りしていると癒着を疑われるためか、何社かローテーションを組んで対応しているケースがあります。
院内葬儀社といっても普通の葬儀社と変わりはありません。
病院内では白衣を着ていたりしますが、病院から出れば白衣を脱ぎスーツを着て葬儀の仕事をしています。
葬儀社が病院の霊安室に出入りするのは「ご葬儀の依頼をいただくため」に尽きます。
緩和ケアなど、亡くなることを前提に入院されている場合は別として、ご遺族が葬儀社をはっきり決めていることはそんなに多くありません。
特に事故などで突然のお別れをすることになってしまった場合は悲しみがいっぱいで、とても葬儀社を検討する余裕などありません。
誰に連絡すれば良いのか、葬儀の費用はいくらかかるのか、途方に暮れてしまうことでしょう。
ここで院内葬儀社の出番です。葬儀社が決まっていないご遺族からご葬儀の依頼をいただくのです。
決まっていたとしても、悲しみで冷静な判断ができないご遺族は、目の前にいる院内葬儀社にそのままお願いしてしまうケースもあります。
ご存じの通り葬儀費用は高額なものです。
言い方は悪いですが、院内葬儀社にとって病院に入ることはとても旨味のあることなのです。
4.院内葬儀社にお願いするメリット・デメリット
では院内葬儀社に葬儀の依頼をすることが悪いことなのかというと、一概にそうだとは言えません。
目の前に葬儀社がいるわけですから、即対応してもらえます。わざわざ呼ぶ必要もないので、時間的な効率からもメリットがあると言えます。
説明を受けた上でご希望にそった葬儀をしてくれそうで、料金的にも納得できる葬儀社だとはっきり判断ができれば、依頼してしまっても良いかもしれません。
しかし、考えてみてください。大切な方を亡くしたばかりですから冷静な判断が難しいと言えます。
昔に比べて安くなってきたとはいえ、葬儀費用はまだまだ高額なものです。
特に院内葬儀社は、まず院内業務として病院に入る際にお金がかかっていることがありますから、その分が葬儀費用に乗せられ割高になるケースが多かったようです。
落ち着いて考えれば、同じ内容ではるかに費用の安い葬儀社に依頼できたかもしれません。
また病院から搬送するところまでを院内葬儀社にお願いして、その後の葬儀は別の葬儀社に依頼しようとする方もいらっしゃいます。
合理的なようですが、実際は一旦お願いしてしまうとなかなか断り難くなってしまい、そのままズルズルと葬儀までお願いすることが多いようです。
他社との比較検討が公正にできないことはデメリットであると言えます。
5.途中のキャンセルは可能なのか
葬儀社を決めていない場合は、病院側の早く葬儀社を決めてもらいたい事情から、出発を急かされることが多いようです。
また葬儀社を決めていた場合でも、ご遺族の悲しみ深く冷静な判断が難しいのをいいことに、言葉巧みに自社に誘導しようとする院内葬儀社もあるそうですから注意が必要です。
「安心してください」「すぐにご搬送できますよ」「すぐにご自宅にお連れしてお線香の支度ができますよ」「すぐにこの日程でご葬儀の予約をしてしまいましょう」「あとはすべて弊社にお任せください」「費用はだいたいこのくらいです」「安心してください」。
急かされている上に何もわからないご遺族がこんなことを言われたら、渡りに船とばかりにお願いしてしまうのも無理ないことです。
一旦は院内葬儀社に依頼したものの、少し落ち着いたところで考え直し、葬儀社を変える方は多くいらっしゃいます。
弊社では月に何件もそういったご相談をいただきます。「病院の葬儀社に依頼をしたが、見積もりが高いので相談をしたい」「葬儀社の変更は可能か」などです。
途中から葬儀社を変更するのはもちろん可能です。
キャンセルをした場合は、それまでに使用した備品や搬送料などの費用は請求されてしまいますが、それを含めた最終的な見積もりを比較検討した上で判断し、断る場合ははっきりとその意思を伝えましょう。
長時間説得されるなど、あまりにもキャンセルに応じてくれずにお困りであれば、病院側に苦情を入れるのも手段の一つです。
院内葬儀社は病院にクレームを入れられるのが一番困るからです。
まとめ
今回は「院内葬儀社」についてお話ししました。
この記事を読み、なんとなく悪いイメージが先行してしまった方のために申し上げますが、院内葬儀社も私たちと同じ葬儀社なのです。
ご遺族の想いをくんでご希望の葬儀を実現しようとすることに変わりはありません。
葬儀が良いか悪いかはまた別の話になってきます。最終的に葬儀を終えてみないとわかりません。