行旅死亡人とは?身寄りのないご遺骨の行方や孤独死や身元不明の死を避ける方法も紹介
2022.08.16
毎日、多くの人々がお亡くなりになりますが、その中には身元が判定できないケースや、身寄りのないケースも意外に多いです。こうした死者は、行旅死亡人(こうりょしぼうにん)と呼ばれています。
人と人との関係性が薄れた現代社会においては、誰もが行旅死亡人になる可能性があるといえるでしょう。ご自身はもちろん、ご家族やご親戚、知人や友人が行旅死亡人になる可能性もゼロとは言えません。
そこで今回は、行旅死亡人について掘り下げつつ、ご自身が行旅死亡人にならないようにする方法などについても解説します。
行旅死亡人とは
行旅死亡人とは名前や住所が不明で本人の身元が判明できず、遺体の引き取り手がない死者をさす法律上の言葉です。
「行旅」という言葉からは、旅行中に行き倒れて身元が分からない人を想像されがちですが、病気や事故、自殺、他殺も含めて身元が判明しない人すべてを行旅死亡人として扱われます。
また、なにかしらの事情で郷里を追われ流浪の生活をしている人や、困窮により各地を転々としている人たちも行旅死亡人です。
行方不明者はもちろん、昨今では高齢者の孤独死もこちらに含まれるようになり、増加傾向がみられます。現代は無縁社会と呼ばれるように、隣近所にどんな人が住んでいるのかがわかりづらい時代です。お隣に住んでいる人の名前を知らない、会ったことも話をすることもないなど人との関りをほとんど持たず、孤立した生活を送っている人も多いと思いでしょう。
特にお年寄りは「身寄りがあっても心配させてはいけない」「連絡することで迷惑をかけてしまうのでは……」と思い込んでしまい、誰にも言わずにそのまま亡くなってしまうケースも少なくありません。さらに、田舎から上京した若者の自殺や不慮の事故などによって、行旅死亡人となる可能性もあるでしょう。
また、身元が判明しても親族の所在が分からない、親族の所在が判明しても遺族が引き取りを拒否した場合も、行旅死亡人としての扱いになります。
行旅死亡人の捜索方法
行旅死亡人を探す方法は、官報または民間の行旅死亡人テータベースの2種類です。
官報とは政府が発行する広報誌で、おもに裁判や法律などに関する報告事項が掲載されています。官報は紙面のものを全国の図書館などで閲覧できますが、インターネット版もあるので、そちらを利用するのが便利でしょう。ちなみに、30日間であれば無料で利用できます。
一方、行旅死亡人テータベースは個人サイトですが、官報などの情報を参考に2010年以降の行旅死亡人を検索することが可能です。
参考:行旅死亡人データベース
行旅死亡人の対応について
行旅死亡人になってしまった方は、どのように扱われるのでしょうか。自宅と病院、どちらで死亡するかによって対応が異なるため、それぞれ解説します。
行旅死亡人が自宅で発見された場合
行旅死亡人が自宅で発見されるケースとしては、誰にも気づかれず自宅で孤独死してしまう場合が一般的です。
例えば、郵便ポストに新聞や郵便物がいっぱいになっていることなどがきっかけで、周囲の人々が異変に気付くことがあります。また、ホームヘルパーさんや訪問看護を利用している場合など、誰かが部屋を訪ねてきた際に発見されることが多いようです。
行旅死亡人が自宅で発見された場合は、まず警察や行政が身内や親族を探しますが、それでも身元が分からない場合は、行旅死亡人として取り扱われます。また、その後、連絡が取れても、ご遺族が引き取りを拒否した場合は行旅死亡人として扱われます。
行旅死亡人が病院で亡くなった場合
行旅死亡人が病院で亡くなるケースは、身寄りのない人が入院中、あるいは不慮の事故などで病院へ運ばれた後に亡くなる場合や、死亡した所在地を管轄する自治体に病院が通報し、救護してもらう場合などが挙げられます。
行旅死亡人が発見されると、まず警察や自治体が身内やご親族を探します。すぐに身元が判明する人もいますが、時間が長くかかる場合もあるでしょう。故人様の所持品などを調べ、名前や住所など何かしらの手がかりを探します。
なお、身元が判明するまでには、かなりの時間を要する場合も多いです。そのため、自治体が依頼した葬儀会社、もしくは事件性などあれば管轄の警察署などが一旦ご遺体を預かります。2週間から1か月程度が一般的ですが、場合によっては、それ以上の時間がかかることもあるでしょう。
故人様の戸籍などから、遠く離れた故郷にご親族を見つけることもあります。その際の連絡手段は基本的に電話ですが、連絡先がわからない場合は手紙を出すようです。
連絡を受けたほとんどの親族は自治体に連絡をしますが、中には音信不通は場合もあります。一定期間待って、期日までにご親族からお返事がなかった場合は、ご遺体の扱いを自治体に任せ、火葬、埋葬まで執り行うケースが多いです。
行旅死亡人の火葬手続きおよび費用
行旅死亡人の場合は、発見された時点で遺体が腐敗していることも多く、すぐに火葬されることが一般的です。その際、行旅死亡人を火葬するための費用は、基本的に死亡人の所持金が充てられます。
葬儀・火葬の費用がない場合
一方、所持金が足りない場合や無い場合は、自治体が費用を公費で立て替えることが多いです。その後、身元が判明し引き取り手が見つかった場合は、自治体は火葬費用を引き取り手に請求しますが、引き取り手自身が生活困窮などの理由で、支払いに応じられない場合も多々あります。その場合は、最終的に自治体が費用を負担するようです。
火葬を執り行うためには、死亡診断書を戸籍課へ提出しなければなりません。本来死亡届は、ご親族が届出人となりますが、行旅死亡人の場合、届出人の対象者となるのは、家主、家屋管理人(病院長、施設長)、後見人、保佐人のいずれかとなります。
どれにも当てはまらない場合やご親族が拒否した場合は、死亡人が亡くなった地域を管轄する自治体が、生活保護法のもと区福祉保健センター長扱いで死亡届を作成し、葬祭扶助として火葬を執り行います。
葬祭扶助とは、生活保護法第十八条に定められた、困窮のため最低限度の生活を維持できない人に対して、下記事項の範囲内において行われる扶助のことです。
・検案
・死体の運搬
・火葬、または埋葬
・納骨、その他葬祭のために必要なもの
火葬や最低限の葬儀費用は、生活保護(公費)から支給されます。またお葬式は、儀式を一切行わない簡素な火葬だけを行うことが一般的です。
行旅死亡人のご遺骨の行方
火葬された行旅死亡人のご遺骨は、どうなるのでしょうか?基本的には、自治体が保管することが一般的です。今回は、横浜市の事例なども交えて解説します。
ご遺骨を預かる機関
行旅死亡人の対応は、死亡人が発見された自治体の管轄です。
自治体によってルールは異なりますが、横浜市では横浜市健康保健福祉局の管轄で引き取り手のないご遺骨の遺骨保管を行っています。ただし、遺骨保管には以下のようなルールがあり、誰でも預けられるわけではありません。
・身寄りがなく引き取り手がない場合
・身寄りはあるが身内が引き取りを拒否した場合
・生活保護の受給者が亡くなった場合
・同居する家族も同様に生活保護受給者
・遺骨保管が認められた場合
上記条件に該当する場合は、死亡人の亡くなった管轄にある区役所の生活支援課で遺骨保管依頼書を作成し、書類と一緒にご遺骨を預かります。遺骨保管は横浜市が委託する受任者(葬儀会社)が管理を行うことが一般的です。
現在、現在横浜市は遺骨保管期間を3年と定め、横浜市納骨堂(久保山墓地の一角)に保管します。保管対象のご遺骨は、年度別にそれぞれ預かった順に番号が付けられ、名前と番号で管理されますが、中には名前のない遺骨もあるそうです。
また、戸籍調査などを行っても、身元が判明しないご遺体もあります。仮番号で火葬し、お骨になるとその年の年号、番号、性別などで管理されるようです。なお年間数件ですが、警察や役所による調査の結果、番号しかないご遺骨の身元が判明し、後日ご遺族が引き取りにくるケースもあります。
ご遺骨にお参りができる場所
ご遺骨の保管期間中は、自由に見学やお参りができます。(納骨堂内部の見学はできません)
保管期間を経過したご遺骨は、同じ場所(横浜市の場合は横浜市納骨堂裏手)に埋葬されて無縁仏となり、毎年秋に行旅死亡人と物故者の慰霊祭が行われます。納骨堂には、埋葬された無縁仏の霊位として慰霊碑が建てられ、通常のお墓参りと同様、命日などに毎年訪れるご親族もいらっしゃいます。
横浜市の遺骨保管で過去にお預かりし、その後埋葬された人のお名前も横浜市福祉局で保存されているそうです。なお、横浜市での遺骨保管は、毎年1,000体以上のご遺骨を保管しているそうです。年々数が増えることから1つでも多くお預かりできるよう、収骨する骨壺のサイズは、4寸(13㎝四方のサイズ)と決まっています。
とても小さな骨壺なので、すべてのご遺骨を納められません。入りきらなかったご遺骨は、火葬時に、そのまま火葬場で供養されます。なお、埋葬するまでの期間であれば、預けたご遺骨を引き取ることが可能です。
その場合、管轄の区役所生活支援課へ申し出て、引き取りの手続きを行う必要があります。ちなみに、ご遺骨の保管や納骨堂へのお参り、ご遺骨の引き取りに関して、費用は一切かかりません。
また、すぐにご遺骨を引き取れないが、引き取る意思がある場合は、保管している管轄の区役所生活支援課へ問い合わせましょう。預かり期間が過ぎてしまうと埋葬されてしまうため、保管先や保管期間、必要な手続きなどについては事前に確認しておくと安心でしょう。
行旅死亡人の遺産について
行旅死亡人の財産は相続する対象がいないため、家庭裁判所によって相続財産管理人が選出され、処理されます。行旅死亡人の財産は葬儀や火葬の代金に充てられます。(後日、ご遺族が見つかった場合は、そちらへ請求される)
また、残りについては相続財産管理人による捜索が合計3回実施され、相続人や債権者(故人様にお金などを貸した人)が見つかれば、そちらへ分配されます。しかし、見つからなかった場合は、国庫に保存されるルールです。
【孤独死・身元不明死】行旅死亡人にならない方法
行旅死亡人にならないために、今からやっておけることがいくつかあります。「明日は我が身」という言葉もあるように、誰もが行旅死亡人になる可能性があるため、どのような方法なのか確認しておきましょう。
周囲の方とコミュニケーションをとっておく
ご家族やご親戚がいない場合は、知人や友人、ご近所の方と普段からつながりをもっておくことが大切です。元気なうちに他人とコミュニケーションをとっておくことで、孤独死、身元不明の死を回避できる可能性が高くなるでしょう。
最近は無縁社会とも言われますが、ご家族やご親戚がいる人は定期的に連絡をとっておくことや、普段通っている病院や施設などのスタッフともコミュニケーションをとっておくと安心です。
身寄りがない人は、周囲に信頼できる人がいれば、元気なうちにつながっておくことをおすすめします。例えば、地域の民生委員の見守りなどを受け入れることで、孤独死や身元不明死を抑制できる可能性が高くなるでしょう。
エンディングノートを準備しておく
万が一に備えて、ご親戚やご友人がどこにいるかなど文字として残し、エンディングノートなどにまとめておくことも、孤独死や身元不明の抑制には有効な方法です。
死後事務委任契約制度を利用し、第三者へ死後の手続きを委託する意思を、エンディングノートに記載しておきましょう。口頭でも契約できますが、公正証書を残しておくことが望ましいです。
遺書や遺産、ご家族、ご親戚などについて文字情報に残す作業は、当然ながら生前にしか実施できません。特にひとり暮らしの高齢者の場合は、早めに準備をしておく必要があります。
その際には、自治体のエンディングサポート制度を活用するのもひとつの方法です。
まとめ
少子高齢化や核家族化などの影響もあり、行旅死亡人になることは、決して他人事ではありません。孤独死や身元不明死を減らすことは、社会的な課題といえるため、今回紹介した内容を参考に、ご自身の身の回りの整理だけでも、早めに実施することをおすすめします。
また、ご家族やご親戚、知人、友人などが遠方にいる場合は、ときどき連絡をとるように心がけることが大切です。行旅死亡人となる人を減らすためにも、普段から周囲の人々と積極的にコミュニケーションをとっておきましょう。