戒名とは?おもな位の一覧と宗派ごとの戒名も紹介
2022.10.05
仏教では、僧侶によって故人様に戒名が与えられます。戒名は宗派ごとに違いがあることはもちろん、ランクなども存在するのですが、その事実を知らない方は多いでしょう。
そこで今回は、戒名がどのようなものか見識を深めてもらうために、おもな戒名の位の一覧と宗派ごとの戒名などについて解説します。
戒名とは
仏教では人が亡くなった際、仏様のもとに行くとされており、そのときに生前に使っていた俗名ではなく、戒名をつけることになっています。つまり戒名とは、人が死んだあとに、つけられる名前のことです。
浄土宗や天台宗、真言宗、曹洞宗、臨済宗では「戒名」と呼ぶことに対し、日蓮宗では「法号(ほうごう)」、浄土真宗では「法名(ほうみょう)」と呼びます。戒名の基本構成は上から「院号」「道号」「戒名」「位号」順番となっており、文字数はさまざまです。
院号と同号、位号について
院号とは、生前から寺院に貢献した方や、社会的に貢献度が高い方に対して、上位戒名としてつけられるものです。院号は戒名の最初に付けられます。
道号とは、仏道を極めた僧侶などにつけられる尊称で、戒名との調和で字(あざな)の他につける名前、生前の別名(ペンネーム)が使われる場合もあります。近年は、道号にその方の特徴や個性を表す文字が使われるケースも多いです。
位牌や墓石に刻まれる10文字程度の文字を戒名と呼びます。故人様につけられる名前を意味する戒名は、ここに刻まれる2文字です。生前の名前から1文字と、仏教の経典から1文字が戒名に選ばれること多いといわれています。また、先祖代々引き継がれている文字がある場合は、そちらを選ぶこともあるようです。
位号は、俗名の「様」に該当するもので、男性の場合は「居士・信士」、女性には「大姉・信女」が用いられます。「居士」「大姉」のほうがランクは上です。社会的な地位や貢献度、信仰心などを基準に、お寺が位号を決めます。
おもな戒名の位一覧
戒名には位(ランク)があり、一般的な戒名と高位な戒名の2種類に分類されます。
【一般的な戒名】
信士・信女/居士・大姉/院信士・院信女/釋・釋尼
【高位な戒名】
院釋・院釈尼/院日信士・院日信女/院居士・院大姉
それぞれの戒名がどのようなものか確認しておきましょう。
信士(しんじ)・信女(しんにょ)
信士は男性、信女は女性につけられる戒名で、もっとも一般的な戒名です。それぞれ、仏教を信仰している人を意味します。
江戸時代には、下級武士に使われていた戒名だといわれており、一般庶民には善男、善女という戒名が使われていました。なお、小説家の樋口一葉(ひぐち いちよう)の戒名は
「智相院釋妙葉信女」です。
居士(こじ)・大姉(だいし)
居士は男性、大姉は女性の戒名です。江戸時代、上級武士などに使われていた戒名で、庶民は使えなかったため、現在も戒名のランクとしては信士、信女よりも上になったといわれています。
居士・大姉は、仏教に対する信仰度や寺院への貢献度が高かった方に授けられる位号で、貴族や武家など上流階級の方が対象とされた位号だったそうです。文学者の夏目漱石(なつめ そうせき)や、昭和の歌姫美空ひばりさんの戒名には、居士・大姉がつけられています。
院信士(いんしんじ)・院信女(いんしんにょ)
院信士・院信女は信士、信女に院号がついたものです。一般人で選ばれる位号の中では、もっともランクの高いものになります。
院号は、退位した天皇が移り住んだ御所を「〇〇院」と呼んだことが由来です。天皇家などに使われていたものですが、のちに社会的身分の高い方や特別な貢献をした方、寺社などに対して、特別に大きな貢献をしたという意味で使われるようになりました。
その他にも、仏教への信仰心が非常に高く、寺院を建立した方などにも、院信士・院信女の戒名がつけられたそうです。一般人に授与される戒名の中では、上から2番目に位置しています。
釋(釈)(しゃく)・釋(釈)尼(しゃくに)
釋・釋は、浄土真宗で使われている戒名です。浄土真宗では戒名ではなく法名と呼ばれ、男性は釋(釈)、女性には釋(釈)尼がつけられます。
以前までは、男性の法名が「釈〇〇」、女性の法名は「釈尼〇〇」とされていた時期もありました。しかし現在は、男女平等の観点から、女性でも釋(釈)を使用する方が増加傾向です。
釋は「しゃく」と読みます。「釈」の旧字で、法名の一番上に使われる文字です。浄土真宗本山の「帰敬式(おかみそり)」で授かる法名には釋が用いられます。法名に釋(釈)の文字が入ることで、お釈迦様の弟子になったことを意味するそうです。なお、法名は浄土真宗独自のものであり、他の宗派にはありません。
院釋・院釈尼(いんしゃく・いんしゃくに)
院釋・院釈尼も浄土真宗で使われている法名です。院号は戒名の一番上に記載する言葉で、奉仕活動などを多く行った信仰心が深く社会的に大きな貢献をした方や、寺社への貢献度が高い方に対する法名といわれています。
もともと院釋・院釈尼は、貴族や栄誉ある方の院号でした。しかし、現在では一般的に浸透し、多くの方が授与する院号になっています。
院号がつくことにより、釋や釋尼などよりもランクは上になり、院信士・院信女と同じランクの戒名といえるでしょう。
院日信士・院日信女(いんにちしんし・いんにちしんにょ)
院日信士・院日信女は日蓮宗独特の法号で、院信士や院信女などに日号が含まれているものです。日号は宗祖日蓮上人の名にちなんだものだといわれており、本来は寺院や宗門、社会への貢献が大きかった方や、信仰の厚い方へつけられることが一般的です。
そのため、日蓮宗への高い信仰心を持つ方や、寺院などに貢献している徳の高い方に授けられる戒名とされています。
院居士・院大姉(いんこじ・いんたいし)
院居士は男性、院大姉は女性に付けられる位号です。「院」は建物を表わす言葉で、出家した皇族が寺院に付属して建てた住居を意味し、皇族かその関係者にのみ授けられた位号といわれています。
院居士・院大姉は居士や大姉に院号をつけたもので、社会的貢献度の高い方や寺院に対して多大な貢献をした方に授与される、最高ランクの戒名です。それだけに、一般人に院居士・院大姉の戒名がつけられることは滅多にありません。
主要8宗派の戒名について
仏教の主要8宗派にも、独特な戒名が存在します。自身の宗派では、どのような戒名が使われているのか確認しておきましょう。
天台宗の戒名
天台宗(てんだいしゅう)とは、平安時代初期に伝教大師最澄(でんきょうだいしさいちょう)によって日本へ伝えられた宗派で、多くの日本仏教の宗旨がここから発展しました。
大乗仏教(出家による自力救済を説く初期仏教)の宗派である天台宗の正式名称は「天台法華円宗」(てんだいほっけえんしゅう)です。また「法華円宗」や「天台法華宗」とも呼ばれています。
天台宗では、万民すべてが仏になれるという法華一乗の教えを説いている点が特徴です。「乗」とは乗り物のことで、身分に関係なく死んだ者は、1つの乗り物によって仏の世界へ導かれることを表しています。
天台宗の経典は「法華経 、大日経、阿弥陀経」で、本山は「比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ・滋賀県)」です。本尊は定められていません。
天台宗では、戒名の参考にするのは基本的にお経です。法華経の経典から文字を探して、戒名を考えます。
【一般的な戒名(一般的→高位)】
信士・信女/居士・大姉/院居士・院大姉
なお、天台宗については以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご確認ください。
関連記事:「天台宗とは?起源や教え、葬儀を紹介」
真言宗の戒名
真言宗(しんごんしゅう)とは、平安時代に空海(弘法大師)によって開かれた密教の宗派です。真言宗では、即身成仏と密厳国土を教義としています。
即身成仏とは、仏教の修行者が密の実践を通じ、今世のうちに成仏を達成することです。密教とは、誰でも別け隔てなく布教されるものではなく、修行によって直接教えを授かった方以外に示してはいけない教えといわれています。
真言宗では灌頂(かんじょう)と土砂加持(どしゃかじ)と呼ばれる、他の宗派とは違った儀式を行う点が特徴です。灌頂とは頭に水を注ぐ儀式で、故人様が仏の位に上がるための、非常に重要な儀式といわれています。一方、土砂加持とは土砂を清めて護摩を焚く儀式です。土砂加持によって生まれた砂には、苦悩を取り除き、ご遺体にまくと柔軟になる、墓にまくと罪過が消えるといった効果があるといわれています。
真言宗の本尊は大日如来です。本尊に向かって右側には弘法大師を祀り、向かって左側には不動明王を祀るのが一般的です。
なお真言宗では、開祖である弘法大師空海の名の一部である「空」「海」の漢字が、戒名によく使われます。
【一般的な戒名(一般的→高位)】
信士・信女/居士・大姉/院居士・院大姉
真言宗については以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひご確認ください。
関連記事:「真言宗の教えやお経とは?葬儀の流れやマナーも解説」
浄土宗の戒名
浄土宗(じょうどしゅう)とは承安5年に、法然上人(平安時代末期から鎌倉時代の僧侶)が開いた大乗仏教の宗派で、鎌倉仏教のひとつです。浄土宗は「浄土専念宗」とも呼ばれ、本尊は阿弥陀如来(あみだにょらい)で、右に「観音菩薩(かんのんぼさつ)」、左に「勢至菩薩(せいしぼさつ)」を祀ることもあります。
念仏を唱え阿弥陀仏への帰依や感謝を表すことで、仏の救済を受け、死後は必ず極楽浄土に往生できるというのが、浄土宗の教えです。
浄土宗で戒名によく使われる漢字は「誉」「和」「如」「空」「宝」「菊」です。中でも「誉」は浄土宗を表す漢字のため、特によく使われています。
【一般的な戒名(一般的→高位)
信士・信女/居士・大姉/院居士・院大姉
浄土真宗本願寺派の戒名
浄土真宗本願寺派(じょうどしんしゅうほんがんじは)は浄土真宗一派の宗教法人です。鎌倉時代前半から中期にかけて親鸞聖人(しんらんしょうにん)を宗祖と仰ぎ、門主を中心に浄土真宗の教義を広めました。
浄土真宗本願寺派は宗祖親鸞の墓所である大谷廟堂(おおたにびょうどう)を発祥とする「本願寺」(西本願寺)が本山です。親鸞聖人によって広められた他力本願は、他人任せにする意味だと思われがちですが、阿弥陀仏の本願力を意味します。
浄土真宗本願寺派の本尊は阿弥陀如来で、経典は浄土三部経(大無量寿経・阿弥陀経・観無量寿経)です。
【一般的な法名(一般的→高位)】
釋・釋尼/院釋・院釋尼
真宗大谷派の戒名
真宗大谷派とは、浄土真宗一派の宗教法人です。浄土真宗の中では、浄土真宗本願寺派に次ぐ宗派で、親鸞聖人(しんらいしょうにん)を宗祖としています。本山は京都にある「東本願寺」、ご本尊は阿弥陀如来です。
真宗大谷派の教えは「他力本願」よりも強い「絶対他力」であり、阿弥陀如来に帰依(きえ)すると決めた時点で、誰でも仏になることが約束されているといわれています。
【一般的な法名(一般的→高位)】
釋・釋尼/院釋・院釋尼
曹洞宗の戒名
曹洞宗(そうとうしゅう)鎌倉時代に始まった宗派です。宗祖は「道元」ですが、第四祖の「瑩山(けいざん)」が曹洞宗を広く普及させたため、道元と共に瑩山も崇めます。
座禅の教えを重んじるのが、曹洞宗の大きな特徴です。座禅をすることによって、仏の姿に近づけるという考え方であり、修行でも座禅は重要な意味を持ちます。お釈迦様が坐禅の修行に精進し、その結果悟りを開いたことに由来しているそうです。
道元が35歳の時に記したといわれる「典座教訓」には、「他はこれ我にあらず(他不是吾)」という教えがあります。「人間には一人ひとりに役割や仕事があり、それを他人に任せてはならない」という教えです。何もかもを他の人に任せることは、自分のためにならないことを意味します。
曹洞宗の本尊は、釈迦如来です。経典は、「修証義」(しゅしようぎ)や「般若心経」(はんにゃしんぎょう)を読みます。
曹洞宗の戒名は経典を参考にしますが、般若心径の継典や漢詩などから文字をとり、考えられることが多いようです。
【一般的な戒名(一般的→高位)】
信士・信女/居士・大姉/院居士・院大姉
臨済宗の戒名
臨済宗(りんざいしゅう)とは、平安時代から鎌倉時代初期の僧、明庵栄西(みょうあんえいさい)が開祖といわれる宗派です。栄西によって鎌倉時代以降に伝えられ、その後、江戸時代に白隠禅師(はくいんぜんじ)によって確立しました。
臨済宗の教えは曹洞宗と同じく、座禅を用いた修行で悟りを開き、自分の持っている仏性(仏になれる性質や可能性)に気づくことで、さまざまな執着を捨て去ることを目指すものです。悟りを得るために修行を積むのが、禅宗のあり方といえます。
臨済宗の本尊は定まっていませんが、一般的には釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)です。経典は、おもに南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)と唱えます。ただし、あくまでも修行によって悟りを得ることが目的の教えであるため、浄土真宗の念仏や日蓮宗のお題目のように、続けて唱えることはありません。
臨済宗の戒名には「清浄」・「浄信」・「信念」などの文字がよく使われています。
【一般的な戒名(一般的→高位)】
信士・信女/居士・大姉/院居士・院大姉
日蓮宗の戒名
日蓮宗(にちれんしゅう)とは、鎌倉時代に日蓮聖人が説いた宗派です。平安時代中期から鎌倉時代初期にかけて、大地震や噴火などの災害が各地で多発し、飢饉や疫病で苦しむ人々が後を絶ちませんでした。そのような社会的混乱や不安が広がる中、仏様の教えにより人々を救おうと日蓮によって開かれた宗派が日蓮宗です。
題目である「南無妙法蓮華経」の7文字が功徳のすべてで、南無妙法蓮華経と唱えることによって「差別なく万人を平等に成仏できる」「誰もが仏になれる」と説き、法華経に勝るお経は他にないといわれます。なお、日本人の名前が宗派名になっているのは、日蓮宗だけです。
日蓮宗の本尊は、大曼荼羅(だいまんだら)で、経典は法華経です。日蓮宗では、戒名のことを「法号」と呼びます。男性は「法」、女性には「妙」の文字がつくことが多いことも、日蓮宗の特徴といえるでしょう。
【一般的な戒名(一般的→高位)】
信士・信女/院信士・院信女/院日信士・院日信女/院居士・院大姉
著名人の戒名
誰もが知っている有名人の戒名を紹介します。戒名・法名を眺めていると、故人様の人柄や生き様、社会的業績を垣間見れるでしょう。
・樹木希林さん:「希鏡啓心大姉」(ききょうけいしんだいし)
「役者は人の心を写す鏡」と、生前よくおっしゃっていたという樹木希林さん。芸名である樹木希林さんの「希」に、人の心を写す「鏡」、そして本名から「啓」の字をとられたそうです。
・桂歌丸さん:「眞藝院釋歌丸」(しんげいいんしゃくかがん)」
芸を真摯に取り組んだこと、生まれ育った町が横浜市の真金町ということを表し、この法名になったそうです。
・西城秀樹さん:「修音院釋秀樹位」(しゅうおんいんしゃくひできい)
「修」は父親の名前から1文字を取っています。「音」は音楽界に貢献した偉大な功績を表し、法名に用いるにも相応しいことから、芸名として長く親しまれ、戒名にも「秀樹」の読み方をそのままに使用したそうです。
・美空ひばりさん:「慈唱院美空日和清大師」(じしょういんびくうにちわせいだいし)
「美空」を「びくう」と読んでいます。「慈」と「唱」という字は、「慈しみの心を持って歌っていた」という、ひばりさんの人柄を表しているそうです。
・石原裕次郎さん:「陽光院天真寛裕大居士」(ようこういんてんしんかんゆうだいこじ)
昭和の大スター・石原裕次郎の戒名で、その人柄が周りの人を温かい気持ちにさせる、まるで太陽のような存在だったということで、最初に「陽光」を用いたそうです。
・志村けんさん:「瑞心院喜山健徳居士」(ずいしんいんきざんけんとくこじ)
「瑞心」とは美しく清らな心のことです。院号は、元々は天皇や皇后のみでしたが、現在では一般の信者も使うようになっています。「喜山」とは、たくさんの喜びや笑いを山のように築いてきたことを表すそうです。 健徳が、戒名の本体で、その名前に徳をつけて健徳としたのでしょう。
まとめ
戒名には、故人様の功績などに応じたさまざまな意味が込められています。ご遺族としては、できるだけ故人様に相応しい戒名をつけてあげたいところでしょう。
しかし、戒名のルールはやや複雑なため、どうしたらよいか分からない方もいると思います。そのような場合は、お葬式の杉浦本店にご相談ください。
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