日本人はお布施にうるさい?仏教における意味やルーツ、世界のエピソードなどをご紹介
2023.10.23
外国人によると「日本人はお布施にうるさい」そうです。実際に、お布施の金額や内容を巡って、トラブルになるケースも少なくありません。
例えば、ある葬儀でご遺族が30万円のお布施を包んだところ、僧侶から「もっと金額を上げてくれないか」と言われたという話がありました。そこで今回は、仏教におけるお布施の意味やルーツ、海外のエピソードなどをご紹介します。
そもそもお布施とは?
お布施とは、僧侶が枕経やお通夜、葬儀などの法要を営む対価として、ご遺族が感謝の意を込めて金銭で応えるものです。
ただし僧侶が法要を営むことは、あくまでビジネスではなく「法施」という位置づけになります。そのため、ご遺族も葬儀の法要執行対価ではなく、あくまで財施として行うのが本来の考え方です。
なお、お布施についての詳細やマナーについては、以下記事の内容をご参照ください。
関連記事:『お布施とは?さまざまなマナーや黄白のお布施袋、封筒の選び方などについて解説』
仏教におけるお布施の意味と種類
仏教において「伏せ」という行為は、菩薩(悟りを求めて修行する人)が行うべき6つの実践徳目の1つとされています。施す人も施される人も、施す物品も本来は空であり、執着心を離れてなされるべきもの伝えられています。
仏教におけるお布施の種類は、おもに以下の3つです。
・財施(ざいせ)
・法施(ほっせ)
・無畏施(むいせ)
財施とは、出家修行者や仏教教団、貧窮者などに財物や衣類などの物品を与えることです。
仏教の教えへの感謝を表し、施す意味があります。
法施とは、正しい仏法の教えを説き、精神的な施しを行うことです。僧侶の務めとされています。
無畏施は施無畏とも呼ばれ、不安やおそれを抱いている人に対して、安心の施しをすることです。例えば、困った人に親切を施すことなどが挙げられます。
お布施のルーツ
お布施のルーツは、仏教が日本に伝来した奈良時代(710年~794年)頃だといわれています。当時、仏教は貴族階級に限られていましたが、平安時代(794年~1185年)になると、徐々に一般庶民にも広まりました。それにともない、お布施も広く行われるようになったそうです。
お布施の一番の目的は、僧侶への感謝とお礼を伝えることです。実質、お布施は寺院への寄付金といえるため、檀家が属する檀那寺を経済的にサポートすることを意味します。
一方、仏教的には、信者が欲を差し出す「修行」の1つとされています。修行のため財産を差し出して、我欲を捨てることがもともとのお布施の意味です。また、葬儀やお通夜などの弔事で遺族に渡す御香典や、御仏前とは意味合いが違います。お布施はご遺族に対するお悔やみの金品ではありません。
日本人はお布施にうるさい?
お布施の金額に関しては、実際の葬儀の現場で、ご遺族が僧侶に対して「金額を教えてほしい」と尋ねることは少なくないようです。そのため、僧侶がなんらかの理由によって明確な金額を回答しなかった場合には、トラブルへ発展する可能性もあるでしょう。
ただし、お布施の金額は個々の信仰や状況によって異なるため、一般的な相場は存在しません。したがって葬儀や法事においては、ご遺族の経済状況や感謝の気持ちに基づいてお布施を行うことが一般的です。
仏教以外の宗教におけるお布施
仏教以外の宗教でも、お布施の考え方は基本的に似ています。例えば神道においては、神職などの「お礼」「御祭祀料」などと記すことが一般的です。一方、キリスト教の場合は、教会に対する「献金」や、牧師・神父への「謝礼」の意味を含みます。
ここでは、仏教以外の宗教におけるお布施について解説します。
イスラム教のお布施
イスラム教において、お布施は「ザカート」と呼ばれる義務的な寄付としてとらえられています。ザカートとは、富裕な者が貧しい者に行う寄付のことで、イスラム教徒の5つの柱の1つです。
ザカートの金額は、収入や資産の額によって決まります。ザカートを怠ると、信仰の義務を果たしていないとみなされ、罰を受けるそうです。
ユダヤ教のお布施
ユダヤ教のお布施は「チャルツ」と呼ばれています。チャルツは、貧しい人や病気の人、教育を受ける機会のない子どもなどを支援するための寄付です。
チャルツは、ユダヤ教徒の義務的な寄付ではありませんが、多くの方がチャルツを行っています。
その他宗教のお布施
ヒンドゥー教のお布施は、神々への感謝や奉仕の表れとしてとらえられています。お布施は、寺院や僧侶の生活を支えるだけでなく、慈善活動や社会福祉活動などに役立てられるそうです。
一方、中国の宗教である道教において、お布施は仙人や神々への感謝や奉仕を意味します。お布施は、寺院や道士の生活を支えるだけでなく、道教の教えを広めることに役立てられます。
世界のお布施エピソード
ここからは、歴史に残る多額のお布施(寄付なども含む)に関するエピソードをご紹介します。
日本のエピソード
16世紀に活躍した日蓮宗の僧侶、日親によるお布施のエピソードがあります。
日親は幼い頃から仏教に深く傾倒し、15歳で出家しました。その後、日蓮の教えに深く感銘を受け弟子となり、全国を巡回して布教活動を行いました。日親は、自身の財産をすべて寺院や貧しい人々に寄付したそうです。その額は、約100万貫文(現在の価値で約100億円)と伝えられています。
日親によるお布施は、当時の社会に大きな影響を与えました。仏教の教えを広めるだけでなく、社会の弱者を救うことにも貢献したためです。
中国のエピソード1
6世紀の中国、明の時代に、皇后である慈寧皇太后が、北京の法華寺へ100万両の黄金を寄付したそうです。当時、黄金の価値は、現代の貨幣価値に換算すると、数十億円から数百億円に相当するといわれています。
慈寧皇太后の寄付は、当時の中国史上最大の寄付であり、法華寺の維持管理や、仏教の教えを広めることに大きく貢献しました。
中国のエピソード2
近年における最大額のお布施は、2010年に中国の富豪である王健林氏のものだといわれています。同氏は、中国の江蘇省南京市の金陵大報恩寺に110億人民元(約121億2,150万円)を寄付しました。慈寧皇太后の寄付に次ぐ、中国史上2番目の大きな寄付だそうです。
同氏は中国の富豪の中で、最も慈善活動に熱心な人物として知られています。この寄付は寺の修復や、貧しい人々への支援などに役立てられ、世界中で大きな話題となりました。お布施の金額は、時代や地域によって異なりますが、この寄付は歴史的にも大きな意味を持つものといえるでしょう。
このように歴史上最大のお布施は、中国で行われたものが多いです。中国では、仏教が長い歴史を持つため、お布施に対する文化が根付いていることが背景にあると考えられます。
アメリカのエピソード
19世紀のアメリカの富豪、ジョン・ロックフェラーによるお布施も、歴史上最大級のお布施の1つです。ロックフェラーは石油王として巨額の財を築き、その財産の大部分を慈善活動に寄付しました。
ロックフェラーの寄付は、教育や医療、社会福祉など、さまざまな分野に充てられ、アメリカ社会に大きな影響を与えたそうです。ロックフェラーは慈善活動を通じて、社会の進歩と発展に貢献しました。
まとめ
お布施は仏教文化に深く根ざし、感謝や信仰の表れとして行われる行為です。日本を含む世界各国で宗教や文化に応じたお布施が存在し、歴史上で多額の寄付が行われてきました。
日本においても、お布施の金額に関するトラブルは稀にありますが、個人の信仰や状況に合わせて行われるもので、相場は存在しません。世界の寄付エピソードには、歴史的な大規模なものや現代の慈善活動に貢献したものがあり、お布施が社会に与える影響は大きいです。
お布施は宗教だけでなく、社会的な貢献としても高く評価され、多くの人々に善意と奉仕の精神を示す手段となっています。