お墓や位牌に掘られる梵字とは?意味や種類も解説

2022.10.05

お墓や位牌に掘られる印象的な文字である梵字。梵字を見たことがある方は多いと思いますが、どのような意味なのか分かる方は少ないでしょう。

梵字は仏教と非常に関係の深い言葉で、それぞれに意味が込められています。今回は、お墓や位牌に掘られる梵字の意味や種類などを紹介します。

梵字とは

梵字とは、梵語(古代インドで使われていたサンスクリット語)を書き表す文字で、別名では悉曇文字(しったんもじ)と呼ばれています。仏教の経典や墓石、位牌などで見かけるものです。

梵字には、それ自体が信仰の対象になるという珍しい特徴があります。日本においては、仏教(特に密教)と密接な関わりを持ち、特別な力が宿る文字として神聖視されてきました。

インドや中国で梵字が廃れた今でも、日本には梵字が残っています。これはひとえに、梵字を神聖視する文化に起因しているのかもしれません。

梵字の由来

全述の通り、梵字はサンスクリット語を書き表す文字です。古代インドでは、サンスクリット語が話されていました。しかし、文字は存在しなかったそうです。

紀元前3世紀頃に、サンスクリット語を書き表すブラーフミー文字が登場し、これが諸国の文字体系の祖となりました。ブラーフミー文字は、ヒンドゥー教のブラフマー神が創造したものといわれています。

ブラフマー神は仏教に取り入れられて「梵天(仏法の守護神)」となったため、そこから転じて「梵字」と呼ばれるようになりました。梵字という呼び方は、漢字文化圏での、ブラーフミー文字の総称です。

ブラーフミー文字は、6世紀頃にシッダマートリカー文字となり、中国経由で日本に伝わりました。なお、悉曇文字という言葉は、シッダマートリカー文字が転じた形です。

梵字にはいくつか種類があり、日本で見かける梵字は悉曇文字です。そのため、広義には梵字、狭義には悉曇文字といえるでしょう。

日本への伝来・普及

梵字が日本に伝来したのは、奈良時代です。梵字は、中国から仏教とともに持ち込まれました。

日本における、梵字と仏教の強いつながりは伝来時までさかのぼります。当時の日本人(有識者階級の僧侶)が見たこともない梵字は、衝撃とともに迎え入れられました。それと同時に、特別な力の宿る文字として扱われていたと伝えられています。

梵字がさらに普及するのは、平安時代に入ってからです。立役者として挙げられるのは、天台宗の開祖・最澄(さいちょう)、真言宗の開祖・空海(くうかい)でしょう。彼らが中国(当時の唐)から帰国した際、梵字で書かれた沢山の経典が日本にもたらされました。ここから梵字の研究がさらに進み、仏教の修行に取り入れられるなど、日本独自の進化が進みます。

お墓や位牌に掘られる梵字の意味

お墓や位牌に掘られる梵字は、宗派の本尊となる仏様を意味するものです。1つの梵字で1人の仏様を表現しています。お墓や位牌に梵字を掘ることによって、故人様が仏様の弟子になったことを表現しているのです。

ただし、お墓や位牌に梵字を入れるのは、おもに天台宗と真言宗、浄土宗に限られます。臨済宗や曹洞宗では、まれに墓石に使われることがある程度です。浄土真宗や日蓮宗では、梵字は用いられないので注意しましょう。

また、子供の墓石や位牌には、宗派を問わず「カ」の梵字(地蔵菩薩を表す)を入れることがあります。これは、地蔵菩薩が子供を守ってくれるという考えに由来するものです。

なお、お墓や位牌に梵字を掘ることが必須ではないので、ない場合もあります。梵字への考え方は宗派や地域によっても異なるため、どうしようか迷った場合は、お寺や葬儀会社などへ相談してみましょう。

主な仏教の宗派における梵字

梵字には、各宗派と特に結びつきの強いものが存在します。結びつきが強いという理由は、一文字で宗派の本尊を表すためです。おもな仏教の宗派における梵字を紹介します。

真言宗の梵字

真言宗の本尊は、大日如来です。「ア」と読む梵字が、大日如来を表します。

密教において大日如来は、宇宙の真理および宇宙そのものを表現したものです。釈迦如来も含め、他の仏はすべて大日如来の化身と考えられています。

浄土宗の梵字

浄土宗の本尊は、阿弥陀如来です。「キリーク」という梵字が、阿弥陀如来を表します。

阿弥陀如来は西方極楽浄土の主であり、生あるもののすべてを救う仏です。鎌倉時代には、「南無阿弥陀仏」を唱えることで往生できるという、阿弥陀信仰が盛んに信仰されました。

臨済宗・曹洞宗の梵字

臨済宗と曹洞宗の本尊は、釈迦如来です。「バク(ハク)」という梵字で、釈迦如来を表します。

釈迦如来は実在した仏教の開祖「釈迦」のことであり、釈迦が悟りを開いた姿のことをさすそうです。

仏の種類と梵字

前述した3つ以外にも、仏の種類を表現する梵字はたくさんあります。ここでは仏の中でも特に位の高い、如来・菩薩・明王(みょうおう)・天部の梵字について解説します。

如来の梵字

如来とは、悟りを開いた者をさします。如来を模した仏像は穏やかな表情が特徴的で、質素な布を体に巻いた姿が特徴です。修行中の釈迦をモデルにしているといわれています。

大日如来と阿弥陀如来、釈迦如来の梵字は、先ほど紹介した通りです。

薬師如来を表す梵字は、「ベイ(バイ)」です。

薬師如来とは、西方極楽浄土の阿弥陀如来に対して、東方浄瑠璃世界(いわゆる現世)の教主といわれています。病気を癒し、心身の健康を守る、現世利益の仏が薬師如来です。仏教が日本に伝来した当初から、信仰されています。

菩薩の梵字

菩薩とは、悟りを開くために修行している者をさします。如来に次ぐ存在で、如来の補佐役という位置付けです。

菩薩を模した仏像は、装飾品を身に着けており比較的派手な印象を与えます。王子時代の釈迦をモデルにしていることが、その理由でしょう。

弥勒菩薩を表すのは、「ユ」という梵字です。弥勒菩薩は、釈迦が入滅してから56億7,000万年後の未来に、仏となってこの世にくだるといわれています。釈迦に代わって人々を救う未来仏といえる存在です。

「カ」という梵字は、地蔵菩薩を表します。地蔵菩薩とは、釈迦が入滅してから弥勒菩薩が現れるまでの無仏の間、人々を救う仏です。他の仏とは違い、六道(地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道)を直に巡って、救済を行うとされています。

勢至菩薩(せいしぼさつ)を表すのは、「サク」という梵字です。勢至菩薩は観音菩薩とともに、阿弥陀如来の脇侍を務める仏といわれています。智慧(ちえ)の光で、生あるもののすべてを救う点が特徴です。

「マン」という梵字は、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)を表します。文殊菩薩とは、智慧を司る仏で「三人寄れば文殊の知恵」ということわざでも有名です。

「アン」という梵字で、普賢菩薩(ふげんぼさつ)を表します。普賢菩薩は文殊菩薩とともに、釈迦如来の脇侍を務める仏です。文殊菩薩が智の象徴であることに対し、普賢菩薩は行(実践すること)の象徴だといわれています。

虚空蔵菩薩を表すのは、「タラーク」という梵字です。虚空蔵菩薩は、虚空のように無限の智慧と徳を持つ仏といわれています。密教においては、記憶力を得る修行「虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)」の本尊とされています。

千手観音を表すのは、阿弥陀如来にも使われる「キリーク」です。千手観音は、あらゆる方法で人々を救う仏といわれており、千の手は無限の慈悲を表現したものだといわれています。

明王の梵字

明王とは、如来や菩薩の言葉に聞く耳を持たない人々を、煩悩から救う存在です。一説では、大日如来の化身とされています。仏像においては、荒々しい雰囲気と怒った形相が特徴的です。

「カーン」という梵字は、不動明王を表します。不動明王は煩悩を断ち切り、どのような人も仏道に導く仏です。決意を表現する怒った顔が特徴で、密教において大日如来の化身とされています。

天部の梵字

天部とは、ヒンドゥー教やバラモン教をルーツとし、仏教を守護する役目を担ったインドの神々のことです。なお、位の高い方から「如来→菩薩→明王→天部」とされています。

毘沙門天(びしゃもんてん)を表すのは、「バイ」という梵字です。毘沙門天とは、仏教を守る護法善神(ごほうぜんじん)の一柱といわれています。北の方角を守護しており、四天王としての別名は「多聞天(たもんてん)」です。毘沙門天の源流は、ヒンドゥー教の財の神・クベーラだと伝えられています。

弁才天を表すのは、「ソウ」という梵字です。弁才天とは才能を司る女神で、元はヒンドゥー教の水の神であるサラスヴァティーといわれています。

大黒天を表すのは、「マ」という梵字です。大黒天は戦闘を司る神で、ヒンドゥー教のシヴァ神の異名とされています。

帝釈天(たいしゃくてん)を表すのは、「イー」という梵字です。帝釈天は、対で祀られる梵天(ぼんてん)とともに、仏教の二大護法神とされています。

干支を表す梵字

未年と申年の「バン」以外は、すべてここまでに紹介した梵字です。

大日如来を表す梵字には、「ア」の他に「バン」があります。このことから分かるように、仏に対応する梵字は必ずしも1つとは限りません。

まとめ

梵字は、古代インドのサンスクリット語を表す文字であり、その一つひとつに象徴する仏が存在します。日本において梵字が廃れずに残っている理由は、「本尊として守ってほしい」という人々の信仰心によるものでしょう。

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