真言宗の教えやお経とは?葬儀の流れやマナーも解説
2022.08.16
仏教にはさまざまな宗派がありますが、その中でも有名なものが真言宗です。日本中に信仰者がいるので、ご家族やご親戚、知人、友人などが真言宗の信者だという方も珍しくはないでしょう。
しかし、多くの方が真言宗の名前は知っていても、その教えやお経、また葬儀の流れについての知識はそれほどないと思います。そこで今回は、真言宗の概要や教え、葬儀などについて解説するので、この機会に見識を深めておきましょう。
真言宗とは
真言宗とは仏教の宗派のひとつで、空海(弘法大師)が平安時代に開きました。真言宗の本尊は大日如来で、本山は高野山金剛峯寺です。
今から2,500年ほど前に、インドでお釈迦様(ガウダマ・シッタルータ)が悟りを開いて始まった仏教は、中央アジアを通って中国やモンゴルなどに伝わり、朝鮮半島を経由して飛鳥時代に日本へ伝来したといわれています。
真言宗の開祖
真言宗の開祖である空海は、神童と呼ばれるほど聡明で、当時の最高教育機関の大学へ進学したそうです。しかし、勤操(ごんそう)に「人生の真実は仏法の中にある」と説かれ、大学を辞めて出家します。
奈良の大寺院で中国語とサンスクリット語を習得しながら修行に明け暮れる中、密教の根本経典である「大日経」に出会い「密教」に感銘を受けたそうです。しかし、密教は経典だけでは学べるものではありませんでした。また、密教法具や密教の奥義を教えられる師も日本にはいなかったので、空海は留学僧として遣唐使船に乗り、唐(中国)への留学を果たします。
空海が開いた真言宗は、唐の都、長安にある青龍寺の恵果(けいか)から学んだ密教が基盤です。密教の第一人者といわれる恵果から、就業に20年は必要だといわれていましたが、わずか2年で恵果に次ぐ密教界の地位を与えられました。さらに、恵果の師であった不空三蔵(ふくうさんぞう)から、仏舎利や曼荼羅図、袈裟、密教法具などの宝物が空海に託され、後継ぎと認められ日本に帰国します。
真言宗の教え
真言宗の教えは「即身成仏」で、簡単に説明すると「修行によって生きているうちに仏になれる」という意味です。仏と同じように常に心を清く保って生きることで悟りが開け、大日如来が境地を示すといわれています。
境地で大日如来と同一化することが、生きたまま仏になることを意味するそうです。
真言宗における密教
真言宗における密教は「真言密教」です。なお密教とは、経典から学びきれないことを秘密の作法を用いて師匠から弟子へ直伝する仏教をさします。手に印を結び、口に真言を唱え、心を静める身口意(しんくい)の三密修行をおこなって、自力で仏と一体になり「即身成仏」を目指すことが、真言宗のおもな教義といえるでしょう。
同じ時代に還学僧として留学した最澄によって開かれた天台宗の「天台密教」を「台密(たいみつ)」と呼ぶことに対し、真言宗は「東密(とうみつ)」と呼ぶのが特徴です。真言宗と天台宗はどちらも密教ではあるものの、それぞれ教義が異なります。
真言密教の「真言」とは仏の真実の「ことば」であり、人間の言葉では表現できない世界やさまざまな事象の深い意味、すなわち隠された秘密を明らかにするという意味です。空海はこの隠された深い意味こそが真実の意味であり、それを知ることのできる教えこそが「密教」であると述べています。
人は誰もが仏になる素質を持っており、身口意を整えることで仏になれるという即身成仏の教えと、この世のあらゆる現象が大日如来の現れであるならば、煩悩もまた現実として受け入れるべきものとして「他を否定しない」という教えは、多くの人の救いとなり1,200年以上経つ今日まで信仰されている状況です。
三密加持
真言密教における、加持祈禱の作法を三密加持(さんみつかじ)と呼び、精神を一点に集中して瞑想を行う点が特徴です。仏(大日如来)の身と口、意(こころ)という3つの秘密のはたらき(三密)と、行者の身と口と意の3つのはたらきが互いに感応(三密加持)し、仏(大日如来)と行者の区別が消え、一体となる境地での安住を目ざします。
空海はこのあり方を、「仏が我に入り我が仏に入る」という意味で「入我我入(にゅうががにゅう)」と呼んだそうです。大日如来はあるがままに真理を具えていて、内なる自分を見つめる修行によって宇宙(大日如来)の真理を観察できたとき悟りが開かれ、生きている間に仏になれると説いています。
お釈迦様が説いた輪廻転生(りんねてんせい)を繰り返し、「無限ともいえるような長い時間をかけて修行した末にやっと成仏できる」という他宗派の仏教とは大きく異なる考え方といえるでしょう。
顕教について
「顕教」は、経典などに記された文字や言葉を通じて、誰もが広く教わるものです。そのため、密教の対立概念にあたるものとして、認知されています。
真言宗のお経
真言宗のお経は、仏が説いた真実の言葉をサンスクリット語でそのまま音読することが重視されているため、日本語ではないことがほとんどです。また、亡くなられた方が一刻も早く仏弟子になる(速疾成仏)ために、お経は微音で早めに読まれます。
葬儀に参列された方にとっては「どんなお経をあげてもらっているのか」「導師は何をやっているのか」など、不明点が多いでしょう。そこで本章では、葬儀でよく読まれる真言宗のお経を紹介します。
理趣経(りしゅきょう)
(理趣会の曼荼羅)
理趣経は、仏の真実の境地に至る道(理趣)を示すお経です。密教の極意を示すものであり、真言宗の常用経典として活用されています。朝晩のお勤めから、葬儀に関係する枕経、通夜、葬儀、初七日、四十九日、年忌法要、お盆、お彼岸といった、あらゆる法事で必ず読誦される真言宗には欠かせない経典といえるでしょう。
理趣経の正式名称は「大楽金剛不空真実三昧耶経(たいらくこんごうふくうしんじつさんまやきょう)・般若波羅蜜多理趣分(はんにゃはらみったりしゅぶん)」です。「金剛頂経十八会十万頌」という膨大な経典群に含まれる、第六会「大安楽不空三昧耶真実瑜伽」と第六会「理趣広経」を簡略化したものだといわれています。
また、この経題は「大いなる快楽に至る永遠不滅に光り輝くエネルギーに満ちた、全宇宙の悟りの境地の真実を表した経典」における「悟りに至る智慧という真理への道を説いた部門」と意訳されるようです。
大日経と金剛頂経
真言宗では「大日経」と「金剛頂経」が二大根本聖典といわれています。2つの経典には、大日如来の説法、金剛界曼荼羅とは何か、修行のマニュアルについて説かれていますが、読経、およびお経の内容を心に落とし込んで日々忘れることなく持ち続けていればあらゆる良いことがありますという「功徳」については触れられていません。
理趣経は、密教の深淵を説く重要なお経でありながらも、功徳について多く触れられているため、真言宗の常用経典となっています。
理趣経は、日本の漢字の古い読み方である「呉音(ごおん)」読みをすることが特徴です。一方、真言宗で唱える「般若心経」や「観音経」など他の経典は「漢音(かんおん)」読みをします。理趣経は、全体を通して煩悩そのものを肯定しているため、一度聞いただけでは理解できないように、わざと呉音読みをしているそうです。
最澄と空海の逸話
理趣経をめぐる、天台宗の最澄と空海の逸話があります。同時期に唐へ渡り、それぞれ別の場所で各々の教義を極めた2人は、お互いに交流がありました。
空海は密教に関する経典を、最澄に貸していたそうです。ただし、理趣経の解釈に関する「理趣釈経」だけは「密教の修行に専念してからでないとダメだ」ということで、貸さなかったといわれています。
密教を会得するためには、仏と一体になる入我我入の体験が不可欠です。また、師匠から灌頂の儀式を受け、師子相承の伝授を授からなければ、密教の修行をはじめられません。
仏教界のスターである最澄に対してさえ「文献だけを読んで密教の知識を頭に入れても無意味で、かつ密教を誤解することにもなりかねない」と、懸念を抱くほどであったという空海の逸話です。
光明真言(こうみょうしんごん)
光明真言の正式名称は「不空大灌頂光真言(ふくうだいかんぢょうこうしんごん)」で、大日如来の真言を意味します。23の梵字から成り、最後の休止符「ウン」を加えて、合計24の梵字で構成される点が特徴です。
漢字を充てると唵(おん)、阿謨伽(あぼきゃ)、尾盧左曩(べいろしゃのう)、摩訶母捺羅(まかぼだら)、麽尼(まに)、鉢曇摩(はんどま)、忸婆羅(じんばら)、波羅波利多耶(はらばりたや)、吽(うん)になります。しかし、密教では神秘性を保つために、梵字や陀羅尼を翻訳せず、そのまま梵音を読誦するのが通例です。
光明真言を唱えると、過去の十悪五逆四重諸罪や、一切の罪障を除滅するといわれています。十悪五逆四重諸罪によって、地獄、餓鬼、修羅に生まれ変わった死者に対し、光明を及ぼして諸罪を除き、浄土に往かせる功徳・利益があるとされており、お経の最後に必ず唱えるのがルールです。また、参列者全員で唱えることもよくあります。
真言宗の葬儀
真言宗の葬儀は、一般的な葬儀と異なる部分があります。真言宗の葬儀の特徴や式の流れについて確認しておきましょう。
真言宗の葬儀の特徴
真言宗の葬儀は、密教をベースにした特徴的な葬儀が執り行われる点が特徴です。また、灌頂(かんじょう)と土砂加持(どしゃかじ)と呼ばれる、独特の儀式が行われます。
灌頂とは、悟りを開き仏になったことを表す真言宗における最高儀式です。真言宗の葬儀では、参列者の頭に水を注ぐ儀式が行われます。
一方、土砂加持とは、本尊前で清めた土砂を焚きながら、明真言を唱える儀式です。真言宗の葬儀では、故人様のご遺体に土砂をかけて納棺します。これにより、故人様の体が軟化し、苦しみが和らぐそうです。
真言宗の葬儀の流れ
真言宗の葬儀では、一般的な葬儀では行われない儀式が執り行われます。真言宗の葬儀の大まかな流れは、以下の通りです。
1:塗香、三密観、護身法、加持香水の法
・塗香(ずこう):故人様のご遺体に香を塗る儀式。けがれを取り除く意味がある
・三密観(さんみつかん):故人様が成仏するために、吽の字を身・口・意に観じる儀式
・護身法(ごしんぼう):五種の印を結びながら、真言を唱える儀式
・加持香水(かじこうずい):香水を浄化する祈りを捧げる儀式
2:三礼
三礼文を唱える儀式
3:表白・神分
表白(ひょうびゃく)で大日如来に祈り、神分(じんぶん)は仏や菩薩の名前を唱え、降臨に感謝し故人の滅罪を願います。
4:声明
仏教音楽を流す儀式
5:授戒作法
僧侶が剃刀を持った僧侶が、偈文を唱えながら故人様の頭を剃る儀式
6:引導
表白と神文を再び執り行う儀式
7:焼香
参列者が焼香を行う。このとき、僧侶は諷誦文(ふじゅもん)を唱える
8:出棺
導師最極秘印を結ぶことで、葬儀が終了。僧侶が退場した後、出棺
真言宗の葬儀におけるマナー
真言宗の葬儀では、焼香は3回行うことが一般的です。お香は人差し指と親指、中指の3本でつまみ、額で頂いた後、火種へ落とします。焼香を3回実施した後、合唱するのが真言宗の焼香におけるマナーです。
一方、真言宗の葬儀に持参する香典袋には、ほかの宗派と同じように「御霊前」や「御香典」と記載すれば問題ありません。金額の相場も一般的なものと同じです。
香典については以下の記事で詳しく紹介しているので併せてご確認ください。
なお、真言宗の葬儀では、108個の玉が連なる振分数珠を使うことがマナーとされてきましたが、最近は簡易数珠を持参する方が多いようです。
まとめ
「修行によって生きているうちに仏になれる」という「即身成仏」の教え説く真言宗は、今なお多くの人々の心の拠り所になっています。また、葬儀においても、真言宗の文化を取り入れた独特な儀式が執り行われる点が特徴です。
真言宗では大切なお経を唱える前に、経典の本文にはない大日如来への帰依と弘法大師空海への感謝の言葉である「勧請句(かんせいく)」唱えます。本文の後には、「お経を唱えさせて頂いてありがとうございます。この功徳でみんなが幸せになりますように」といった「回向文(えこうもん)」も唱えることが特徴です。
理趣経の詳しい説明は難しいですが、葬儀の読経は亡くなられた方に仏弟子になっていただく修法伝授の場であるとともに、参列者に対する心遣いとして唱えられます。聞いただけでは意味がわからないものですが、わざと伝わらなくしている意図もあるので、読経中に寝ないで過ごしたいものです。
なお、横浜市や川崎市でどのように真言宗の葬儀を行う際には、実績豊富な弊社お葬式の杉浦本店にご相談ください。横浜市、川崎市における多くの葬儀実績があるので、故人様やご家族、ご親族の気持ちに寄り添った葬儀プランをご提案いたします。創業130年の信頼と安心が自慢です。24時間365日いつでもお気軽にお問い合わせください。