お湯灌ができる車。湯灌車とは
2022.11.30
目次
・湯灌車とは
・介護用の移動入浴車との違い
・湯灌車以外の葬儀に関係する特殊車両
・まとめ
湯灌車とは
湯灌車とは、時間や場所を問わず、故人様がお休みいただけるスペースさえあれば最期のお風呂・「湯灌の儀式」を行えるように開発された、「究極の入浴施設」です。
その由来ははっきりと分かっているわけではありませんが、とある企業様のホームページには、1985年に湯灌専用車を開発したと掲載されています。
湯灌とは
そもそも湯灌とは、仏葬で、棺に納める前にご遺体を湯で洗い清めることを言います。
江戸時代などの昔では、自宅にお風呂がない家庭がほとんどだったため、湯灌場(ゆかんば)という寺の一画に設けられた、専用の場所で行っていました。
当時はほとんどのお寺に湯灌場があったそうです。
『東海道中膝栗毛』巻3之上にも、「湯灌場」という言葉が出てくるほどです。
昨今では、ほとんどご自宅や、葬儀社のホールで行うことが一般的となっています。
湯灌車に積載されているもの
湯灌車には、給排水のホース、浴槽などが積載されています。
マンションやお部屋から湯灌車を停める位置が遠く、ホースが届かない位置で湯灌の儀式を行う場合でも問題なく湯灌の儀式を行えるように、ポンプやタンク等の設備が積載されていることが多いです。
タンク
まずは湯灌車内のタンクに水をため、車の電気で水を沸かし、おおよそ40℃ほどのお湯にして湯灌を行います。
お湯の温度は、自在に設定することが可能です。
季節や、使用するホースの長さによって温度を調整します。
メーカーによって違いはありますが、最大で75℃くらいまで上げることのできる湯灌車もあるそうです。
給水・排水の設備もついているため、ご自宅などでお湯をいただくことや、排水処理を行うことなどはありません。
延長コード
湯灌車のエンジンを切る関係上、電源だけはお借りすることがほとんどです。
そのため、延長コードも湯灌車には必須の備品となります。
ホース・給排水設備
ほとんどの湯灌車では、荷台の一番後ろにホースや給水コック、排水コックがあり、湯灌開始前と終了後にコックやスイッチを動かし、給排水を行います。
給排水設備には、髪の毛や垢を吸い込んだ湯灌車が壊れないよう、大型のストレーナーがついていることがほとんどです。
昔の湯灌場の名残として、葬儀社によっては、湯灌を行う会館に給水、排水設備があるところもあります。
ご自宅以外で湯灌を行う際に行いやすいようにと、時代とともに変わってきている部分です。
湯灌車からホースを伸ばし、浴槽と合体させ、湯灌の儀式を行います。
浴槽自体にも給排水のコックがついており、浴槽についているシャワーヘッドからお湯を出して、湯灌の儀式を行います。
水濡れ対策は万全に
湯灌の際に、ご自宅で湯灌の儀式を行う際にもっとも気をつけなければならないのは、水漏れです。
ご自宅の和室や、リビング、故人様がご生前お休みになられていた寝室など、さまざまな場所で湯灌の儀式を行うことができるのが、湯灌車の最大の強みです。
しかし、お風呂場など水を大量に使用することを前提に作られていないお部屋で行うため、最大限の注意が必要です。
ご洗髪やご洗体をする際にはねるお湯は少量なので、すぐに拭けば大丈夫ですが、コックのはめ込みが甘かったりすると、お湯の勢いで外れてしまうことがあります。
こうした水害を防ぐ備品も多く用意されています。
例えば、ご自宅での浴槽にお湯を張る際には、必ず排水溝に栓をされるでしょう。
湯灌の儀式用の浴槽にも排水溝があるため、栓をします。
そうでないと、排水のコックが外れた際にすべて漏れてしまうからです。
湯灌車の備品と聞くと、なにか特別なものを使用しているように思えることもありますが、普段の生活の中で使用しているものも多々あります。
シャンプーは、故人様用の殺菌力の高いものを使用することもありますが、皆様でお手伝いいただけるように市販のシャンプーや、ご生前に愛用されていたものなどを使用することもあります。
湯灌の儀式が終了した後、給排水のコックやスイッチを動かし、水漏れがないようしっかりと、湯灌車の排水タンクへ排水を行います。
湯灌車のおもな車種
湯灌車にはさまざまな備品やお湯を沸かす設備、大きな機械、お棺が積めるように、基本はハイエースやキャラバンなどの大きい車ですが、中には軽自動車のタイプもあります。
軽自動車タイプの利点は、ハイエースやバンタイプなどの大きい湯灌車では通れないような、ご自宅にお伺いする際の住宅街などの狭い道や、入り組んだ場所でも入っていけるところです。
欠点としては、軽自動車の湯灌車は中がほとんど備品や設備になるため、あまり多くの備品を積み込むことができない点が挙げられます。
介護用移動入浴車との違い
湯灌車は、介護用の移動入浴車とよく似ています。
どのような違いがあるのでしょうか。
タンクの容量は介護入浴車のほうが大きい
一番の違いは、水タンクの容量です。
湯灌車は、メーカーにもよりますが、だいたい100~150リットル給水しておくことができます。
おおよそ、湯灌の儀式が3回から4回ほど給水無しで行えるくらいの水量です。
対して移動入浴車は、同じハイエースやキャラバンなどのバン型で、250~300リットルくらい入ります。
おおよそ倍の水量を給水しておくことができます。
湯灌車には、湯灌後に行う納棺の儀式で必要な、お棺などの備品をたくさん積まなければなりません。
そのため、給水タンクの容量を削り、さまざまな備品を積むことができるようにしています。
また、多くの移動入浴車は湯灌車と異なり、大きな給水タンクを載せておく影響から、折り畳み式のバスタブを積載していることが多いです。
湯灌は移動入浴と違い、1日に何度も行うことは多くないため、移動入浴車と比べると、給水タンクの容量が少なくなっています。
さらに移動入浴車には、立って浴びることのできるシャワーや、ご自宅にあるようなバスタブが備え付けられているトラックタイプのものもあります。
このようにさまざまな種類があるのも、湯灌車との大きな違いです。
湯灌車以外の葬儀に関係する特殊車両
葬儀業界では、湯灌車以外にもさまざまな特殊車両があります。
有名なところでは霊柩車や、寝台車と呼ばれる、故人様にお乗りいただく車があります。
湯灌車以外では、故人様がお乗りいただくような特殊車両が大半です。
土葬が主流の欧米では、ご遺体から感染症を防ぐために行う特殊処置であるエンバーミングを、その場で行うことができる特殊車両があります。
トラックの中に、特殊処置を行う処置室が入っており、こちらも故人様にお車へお乗りいただきます。
湯灌車には直接故人様がお乗りすることはありません。
湯灌を行うための備品や設備を積んだ車両だからです。
これは湯灌車の特徴でもあります。
まとめ
湯灌とは何かを説明する際に、介護の訪問入浴を想像していただくことが多いです。
湯灌のことをご存じでない場合でも、身近な訪問入浴なら想像していただきやすいからです。
本コラムでは、使い方や設備の特徴などから、訪問入浴車と湯灌車には大きな違いがあることがお分かりいただけたかと思います。
葬儀業界の特殊車両の中でも、個性的な特徴をもった湯灌車。その性能から中古車相場は250万円前後となっており、新車はいったいいくらなのでしょうか……。